2009年 04月 19日

ほぼノンフィクションストーリー「私とポテトと彼」

b0011881_23392057.jpg狭い店内。
昼時のピークを過ぎた今でも、入り口である自動ドアが
せわしなく動いている。
ここは駅からすぐのファーストフード店。二人がけの
テーブル席が、二つ並んでいる店内の端っこ。
壁側に座っていた私は、入り口から入れ替わりに
パタパタと去っていくお客さんや、財布を片手に入って来た
女性などをボーっと眺めていた。ちょっと遅めのランチ中。




あのギター背負ってる人、背たっかいなー・・・。
あー。かわいい! 3歳くらいかなぁ。あぁぁ、危ないよ。お母さんちゃんと見ててよ。

フライドポテトを口に運びながらの何気ない人間観察。
皆、注文をしてトレイや袋を受け取ると足早に私の視界から消えて行く。
自分のいる席だけゆったりのんびりしている感じが面白い。
そんな、皆と時間の進み方が違う私の領域に、一人の男性が入り込んで来た。
遠くからどんどんと近付いて来る。
スーツとまでは言わないが、ちょっとお洒落なジャケットに同じ色のズボン。
手にはホットコーヒーを持っていた。

他にも席は空いているはずだったが、彼は私の隣のテーブル席へとゆっくり近づき、そして
私の隣にためらいもなく腰掛けた。

「よいしょ」という気の抜ける掛け声と共に・・・。

せっかく作り上げた私の世界が、その一言で一気に崩れた。
「よいしょ」って…普通、外出先では言わんだろー…。
人間観察終了。
変な人と思いつつ。食事に集中することにする。

・・・・・。・・・・・。
が。
・・・なんか視線を感じるんですけど?

店内は狭い。ゆえに席と席の間も狭い。わざわざ隣を見なくても、気配を感じる距離だ。
そしてその気配は確実にこちらを伺っている。

何? 私の顔になんかついてんの? いやもしかして知り合いか?
チラチラと私に向けられる視線に居心地が悪くなる。
どれくらい経っただろう。たぶん相手のコーヒーが半分くらいになった頃、唐突に
「仕事はもう終わったの?」
と感じのいい声が聞こえた。
「??」
ハンバーガーをくわえていた私は、口をモグモグさせながら首を横にひねった。
隣の客と目が合う。相手は私を見つめていた。この質問は私に向けてだと気付き、
慌てて手のひらを口元に当てて首を横に振った。
「じゃぁ、お昼休み?これから18時くらいまで仕事だ」
食べ物を飲み込み、小さく「はい」と答えた。
問い掛けて来る目の前の顔をしっかりと見たが知り合いではない。
やっぱり変な人。と印象を固定する。

知らない人と会話するほど、私は積極的ではないので、再びポテトとハンバーガーを相手に
する。しかし、喋り掛けて来たお隣さんは話を続けた。
「でも、今日木曜日だから。明日金曜で…行ったら土日と休みだ」
笑顔で言う。
「そうですね」
釣られて私も笑顔で言う。
「じゃぁ、土日は彼氏とデートだ」
からかうように言われ、
「いやいやいや…」
と曖昧に笑ってごまかしていたが、答えを待っている視線が痛いので思わず「いないです」と
言ってしまった。
なぜ土日にデートを肯定しなかった私!?
「彼氏いないの?かわいいのに。なんでだろうね」
「…なんででしょうねぇ?」
興味なさげに首を傾げながら呟いたが、質問は続いた。
「土日は何してるの?」
「な、何してるの…?」
と言われましても…。
別に何してたっていいじゃないか。
フリーでも仕事をしている私は休みでも自宅で作業していたりするし、仕事じゃなくても
大抵パソコンの前でデザインをしている。もちろん友達と遊ぶ日もあるし、買い物だって
デートだって行ったりするが、説明するのがめんどくさい。
ここで仕事と言ってしまうと、あれ休みじゃなかったの?となり、フリーでも仕事してるんです。と
言ったらすごいね、何の仕事?と自ら話題を提供してしまう。悪いが、見ず知らずの
いきなり話かけて来た人にコチラから話を振るほど好意的にはまだなれない。

と、そんな思いが伝わったのか相手は、
「まぁ、何かしら予定は入ってるよね」
と笑った。
「今度、美味しいものでも食べに行かない?」
これまた唐突な誘いだ。
「えぇ?!いやぁ……」
おいおいこんな場所でそんなセリフ言うか普通!
目を合わせないまま苦笑し、ポテトをつまむ。参ったなぁ。変なのにつかまった。
「いろいろ教えてあげるよ。男を落とすにはとか」
いろいろってアンタ…。
「そうだな、やっぱり料理だな。得意な料理が2、3あればそれでいい」
「はぁ。そうですねぇ」
作り笑顔でうなずく。
「家はどこなの?ふーん、で仕事場が下北」
「はい」
隣からの質問攻めだったがここでやや間が空いた。
人見知りで喋るのが苦手な私は沈黙が嫌いだ。いつも相手が喋らなくなったら間髪入れず
質問をして沈黙を防ぐのが癖になっている。

「下北に住んでらっしゃるんですか?」
言ってから、しまったと思った。何、自分から興味を示してんだよ。
彼のペースにわざわざ乗る必要なんてないのだ。
「いや、僕は梅ヶ丘」
って…また、微妙な場所だなおい。梅ヶ丘…ってイマイチどこだかわからない。
私の知識じゃ梅ヶ丘で話題は広がらない…ってだから広げる必要ないんだった!

「長く続けてた店を、ぁ、3代目だったんだけど、辞めて今、ダンスとか習ってるんだけどね、
時間あるからさ」
ダンスという思いもよらない言葉に驚く。決してダンスなんてやってそうに見えない。
動きも言葉もゆったりしているし…。私もずっとやりたいと思ってた習い事だ。
ダンスという単語にはちょっと好感が持てた。

「携帯番号とか教えて」
「いやぁ、ごめんなさい。教えられないです」
さすがに知らない人に番号は渡せないでしょう。ここまで嫌な顔せず話に付き合ったのは、
絶対悪い人じゃない優しい顔立ちと雰囲気をしていたからだが
「今度会いましょう。あなた、かわいい」
「日曜とかどう?」
などと意外と食い下がってくる。その全てを私は笑って流した。だっていくらいい人そうでも、
今の世の中怖いし。ここでOKして、次回会った時に変な事件に巻き込まれてニュースで
「出会いはファーストフードでのナンパ」とか見出しにされるのは御免だ。

そして、やっと諦めたのか彼は立ち上がった。
「またどこかで会ったりしてね」
と素敵な笑顔を残して…。

ためらいなく私の領域に入り込んで来た不思議な客は、去り際もスマートだった。
ただ、立ち上がる時には、あの気の抜ける掛け声はなかったけれど…。

出口に向かう背中を見やる。自動ドアの向こう側、雑踏の中に彼の姿が消えた。

……今の何だったんだろ?

いつもと変わらない毎日のいつもと変わらないランチ中に、いつもと違う出来事が起きた。
なんかちょっと面白かったかも…。
彼の言うように、またどこかで会ったりしたら1回くらいご飯に付き合ってやってもいいか。
なんて頭の隅で考えながら、残りのポテトをまとめて口に運んだ。



次回予告:衝撃の事実?!
[PR]
by Snow_Cat-101 | 2009-04-19 00:10 | 小説・詩